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月を喰む黄金の獣(上巻)【イラストあり】

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月を喰む黄金の獣(上巻)【イラストあり】

著者

内容

■内容紹介■ 淫らに翳る月蝕の夜、 黄金の獣は、狂おしく闇に吠える。 そして、狼と赤ずきんの赤い月の夜が、始まる。 竹書房・タナトス文庫webで連載された幻の長編ファンタジーBLを竹の子書房がKindle化! ■ストーリー■ かつて、伝説の魔獣〈フェンリル・ヴォルフ〉に襲われた森の民の末裔、エマヌエル。 そのエマヌエルを危機から救い出した後、姿を消していた守備隊長マクシミリアン。 魔獣を鎮める儀式の生け贄となるべく、大祭司の元で淫猥な牡として育てあげられたエマヌエルが、儀式の場で再会を果たしたのは、かつての英雄の変わり果てた姿だった――。 世界で最も有名なファンタジー「童話・赤ずきん」をモチーフに、耽美BLの雄・須藤安寿と筋肉BLの雄・我心達吉のコラボレーションで贈る、鬼畜と獣と血と肉と――涙の物語が、今ここに始まる。 ■立ち読みサンプル■ 一歩進むごとに、床を這う鎖が、ちゃりっ、かちゃっ……と耳障りな音を立てる。 厭な音だ。 その音が『囚われの身であることを忘れるな』と、繰り返し囁いているようにも聞こえてくる。 「あ……あの……」 そう声をかけてみたが、返事はない。 マクシミリアン・イエーガー。 今ではエマヌエルもその名を知っている。だが、どう呼びかけるべきなのかは判断に迷った。三年前に初めて出会ったときも、そして昨日も……マクシミリアンとエマヌエルは互いに名乗り合うことさえしないままだったのだ。 鉄格子の前に食事の膳を置き、エマヌエルは膝をついて檻の内部の様子を伺った。鼻をつく異臭。神官たちが身を清めるための熱泉が湧く封印の間にありながら、マクシミリアンは汚れ放題のままだった。薬師たちも兵たちも獣を恐れ、不衛生な檻に閉じ込めたまま何の世話もしていないようだ。放置したことでマクシミリアンが死んだとしても、いっそ好都合だと思っているのかもしれない。 マクシミリアンは鉄格子にもたれかかって、力なく座り込んでいた。目を閉じたまま、身じろぎさえしない。血の気を失った顔。少し眉を寄せ、苦痛に堪えるように表情を歪めている。 やはり何本もの毒矢に刺し貫かれたことは痛手だったのだろう。 それでも、繰り返される呼吸にはさほど乱れはないようだ。 そのことに、エマヌエルは少し安堵を感じた。 そうして静かにしていると、マクシミリアンは三年前にエマヌエルが心惹かれた端正な面立ちのままだった。伏せられた瞼を縁取って密生する長い睫毛や、顎にまばらに伸びた髭までが髪と同じ豪奢な金色であることに気づいて、どきりと胸が高鳴る。 (ね……触っても……いい?) 思わず、そう言葉をかけたくなる心地。 だが実際には何もできないままだった。 伸ばしかけた手が宙を泳ぐように止まる。マクシミリアンに触れることも、その願いを口に出すことさえできない。 彼を胸にかき抱いて肌に直接その髭のざらつきを感じ取りたい。その瞼にくちづけしたい。 いくらそう望んでも、それは単なる欲望の捌け口として充てがわれた〈生贄〉ごときに許される行為ではないのだ。 「あの……イエーガーさん。……だ、大丈夫ですか?」 意を決してエマヌエルはそう呼びかけてみた。緊張のあまり声が上ずっている。 だがその声にも、マクシミリアンはほとんど反応らしいものを返してはこない。 隆々と筋肉の盛り上がった体をいく筋も流れた血の跡はまだ完全には乾ききっていないのに、矢傷そのものはすでに塞がってほとんど治癒しているようにさえ見える。それもまたフェンリル・ヴォルフの持つ魔力……なのだろうか? 床にはマクシミリアンが自分で引き抜いたのであろう毒矢が放り出され、血溜まりに半ば沈んでいた。 「イエーガーさん……?」 もう一度そう呼びかけたとき、マクシミリアンの瞼がぴくっと震えた。 その瞼が開き切るよりも早く、まるで危機を察した獣が身を翻すような唐突さで鋭い爪を持つ左手が跳ね上がる。 そして次の瞬間には、獣の手がエマヌエルの首輪を掴んでいた。 「あ……っ」 その素早い動きに身構えることもできずに力任せに引き寄せられる。 エマヌエルは何が起こったのかも分からないうちに鉄格子に思い切り顔をぶつけることになった。鉄格子が痛いほど顔に食い込んでいる。膝立ちの不安定な姿勢のまま、エマヌエルにはまったく身動きが取れなかった。 「な……にを……うぅっ。痛……っ、痛いよ。放して! ぼくはただ……」 「あいつと寝たのか」 エマヌエルの言葉など端から聞く気もないらしい。 マクシミリアンは最初に檻から出てきてエマヌエルの前に姿を現したときと同じ、不機嫌そうな声でそう詰め寄った。 「あ……あいつ?」 声が震える。 とっさに、マクシミリアンが言っているのはシュタインホーフのことなのだろうと思った。義父の褥でありとあらゆる性技を仕込まれたこの三年間のことを蔑まれているのだろう、と。 マクシミリアンが神殿守備隊の隊長だったあいだにシュタインホーフとどれほど近しい場所にいたのかは分からない。だが昨日のマクシミリアンとシュタインホーフのやりとりを思い返してみれば、少なくとも現在のふたりの関係が良好でないことは明らかだ。 だが続いて叩きつけられるように発せられたのは、エマヌエルが考えてもいなかった言葉だった。 「フェンリル・ヴォルフだ。あいつとヤッたのか」 「え……?」 エマヌエルは言葉に詰まった。 一瞬、何を問われているのか分からなかった。 ■著者プロフィール■ 須藤安寿(すとうあんじゅ) BL小説家 永遠に咲く花のように (タナトス文庫) [文庫] でデビュー (「このBLがやばい! 2011年腐女子版」小説ランキング19位) ■代表作■ 緋の衣、乱されて……【イラストあり】 (スイート蜜ラブBL文庫)

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