喪服の男たち 後編(全二回)

喪服の男たち 後編(全二回)

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内容

★★★★★ 通夜も葬式も、故人と家族の関係で毎回ガラリと雰囲気が違う。お義理で集まった人が儀式として焼香するだけの式もあれば、家族親族が大勢集まって故人をしのび、泣いたり笑ったりの式もある。だけど一番見ていてつらいのは、やっぱり若い人の葬儀だ。 その夜の通夜はまだ二十代でありながら、夫と子ども二人を残して逝った若い奥さんのものだった。病気らしいが、かなり急に病状が進んだようで、残された旦那さんも子どもたちも、途方に暮れて目が絶望している。いたたまれない気持ちってこういうんだろう。おれまで胸が押しつぶされそうになってしまった。 不思議なことに、こういう時、小早川さんに会いたいという気持ちにはならない。すがって安心したいって思うのが自然のはずなのに……。 「おい、飯付き合え」 片付けをしていると社長に声をかけられた。 「いや、今日はこのまま帰りたいんスけど」 「なんでだ? デートか?」 「いや、そうじゃないスけど」 「だったら付き合え。うまいしゃぶしゃぶ食わせてやる」 「う、しゃぶしゃぶ……」 社長には小早川さんとのことを話してあった。だからもうセックスフレンドみたいな関係も無理だし、もし目障りならバイトも辞めると言った。 「お前は戦力になってるから雇ってるんだ。簡単に辞めてもらっちゃ困る」 小早川さんと付き合うようになったことについては、なぜか文句ひとつ言われなかった。ただ、そうか、と小さくつぶやいただけだった。 しゃぶしゃぶは本当にうまかった。店に入るまでは気まずい空気が流れていたが、いざ食べ始めるとそれどころじゃなくなった。おれは肉命だし、社長も前と同じ態度で、他の社員のうわさ話をしたり、今日のお通夜の遺族の話なんかしてくる。おれは肉を頬張りながら、興味のあるところだけ返事をする。前とまったくおんなじだ。自然な雰囲気。 いまさらだが、小早川さんと付き合うようになって初めて、社長のよさがわかってきた気がする。小早川さんとはセックスの時はすごく燃えるが、後は微妙な関係なのだ。話すことがないというか、小早川さんという人が元々無口な男で。彼にとってそれは自然なことらしいが、おれにとっちゃ気まずい沈黙が多いってことになる。 社長とは一緒にいてぜんぜんそういうことがなかったとわかったのだ。自然体でいられたというか……。 今だってそうなのだ。前と少しも変わってない感じがする。いや、前だってちゃんと付き合ってたわけじゃない。せいぜいセックスフレンドって関係で、それが最近、急に社長が近寄ってきて、そのとたん、俺に男がデキて……。うまくいかないもんだ。でも、社長はおれの親父より年上だから、そもそもそういう目で見られなかったというのもある。 「よく冷えてる。うまい!」 社長がビールジョッキ片手にうなっていた。おれはぼんやりと考えながら肉を頬張っていたから、気づくのが遅れたのだ。 「あれ、なに飲んでんスか!」 「いいだろ、運転頼むな。うちからお前のアパートなら歩いて帰れる」 「だからって」 「おごってやるんだ、そのくらい恩返ししろ」 ★★★★★ 喪服を着た男はセクシーに見える? 葬式でちょくちょく出くわすいい男と付き合うようになった主人公。 寡黙で渋くてエロいことならなんでもさせてくれる年上の男に夢中になり、前から関係のあった葬儀屋の社長とは疎遠になるが……。 初出『ジーメン』。

喪服の男たち 後編(全二回)

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