ヒゲの了治

ヒゲの了治

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内容

★★★★★ 瑛太が珍しく自分から顔を寄せてきた。キスして欲しいのかと思ったら顔をつかまれ、顎ヒゲの辺りで鼻を鳴らしている。 「やっぱクサイわ」 「ん?」 「昨日、テレビで見たんだよ、ヒゲの下って雑菌の温床なんだって。ヒゲ生やしてると、ヒゲの下ってあんま洗わないでしょ?」 ひとがマジなこと考えてたとこなのに、こいつっていつもこんな調子なのだ。 「ちょっとクサイってだけだろ?」 「ほら」 瑛太はおれの顎とか鼻の下とか、ヒゲの生えてるとこを指でこすって、その指先をおれの鼻先に突き出した。 「くせえ……、うわっ、ヤダヤダ、ヤバイ!」 フルフェイスのヒゲ生やしてるおれだけど、自分ではけっこうきれい好きと考えていたのだ。速攻でベッドから出て風呂場に入って、顔に熱いシャワーを浴びせた。シャワージェルつけてゴシゴシとヒゲの下をこすり洗いした。後からついてきた瑛太が、おれのちんぽからコンドームをはがして体を洗ってくれたのだが、その間もずっと、おれは鼻の下とか顎とかほっぺたのヒゲの下をこすり続けていた。 その翌日の午前中、おれは皮膚科の待合室にいた。 前の晩、夜中に顔が痛くてかゆくて目が覚めてしまったのだ。どうもこすり過ぎで肌が荒れたらしかった。鏡に映して見ても、ヒゲの下だからよくわからないが、赤くなっているのは間違いない。 ようやく順番が来て説明すると、おじさんの先生はおれの顔をまともに見もせずに言った。 「ずっと触ってなかった場所をいきなりゴリゴリやったらそりゃ荒れるよ」 そして若い女性看護師を振り返って指示を出す。 「ヒゲ剃り用意して」 「え、剃るんスか?」 おれはあわてて顔を引いてヒゲに触った。 「ヒゲはすぐに伸びるんだからいいだろ。剃らないとどうなってるかもわからない。しばらく剃って清潔な状態を保った方がいい。ほら、シェービングクリーム塗るよ?」 「う」 「じっとしてて」 文句を言うヒマもくれなかった。流れ作業のようにあっという間にヒゲを剃られてしまったのだった。 それから小一時間ほどして、おれは大学のトイレにこもっていた。手洗いの鏡でまじまじと自分の顔を見つめていた。 「おれってこんな顔してたっけ……?」 ★★★★★ フルフェイスの髭がトレードマークの大学生、了治。 バリタチでセックスフレンドともうまくいっているが、肌荒れで髭を剃ったら会う人会う人、自分と気づいてくれなくて……。 男子大学生の髭を巡るホノボノタッチな物語。 ゲイ官能小説。 初出『バディ』。 掲載時は武古田征男名義で発表。

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