男たちと革

男たちと革

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内容

★★★★★ 一週間後、押田は約束どおりボストンを取りにやってきた。 とても寒い日で、押田はウールのコートを着ていた。これでも目はいい方で、一目で上等なカシミヤのものとわかった。やっぱり金持ちなんだろう。押田は工房に入ってくるとまっすぐ俺の目の前までやってきて手を差し出してきた。勢いにおされて握手をした後、その場でコートを脱いでみせた。コートの下の格好を見て、思わず息を詰めた。 上は黒い革のシャツで、下もぴったりと体の線の出た黒革のパンツ姿だった。押田は俺より少し背が高く、上下とも革でそろえているとますます見栄えがする。芸能人やモデルといった風情だった。 そしてあの匂いがした。 寒いからかすかなものだが、革と男の汗の匂いの混じった、独特のあの匂い。 「ずいぶんぴったりできてるな、ズボンもシャツも」 「小さめのものを手にいれて、着て体にあわせたんです」 「革はのびるからな」 「でもちょっと無理させたかな。ほら、ここの縫い目が少しほつれてしまった」 太ももの外側の縫い目が見えてしまっていた。いつ糸が切れてもおかしくない。 「補強するくらいならすぐできるぞ」 「本当に? たすかります」 押田はそのまま、つまり俺の目の前で革パンのファスナーを下ろした。ブーツをはいていて、それを脱いで革パンも脱ぐが、ぴったりとしている上に肌にはりついていてすばやくはできない。俺は一歩後ずさり横を向こうとした。しかし革の下からあらわれた若い男の肌色の鮮やかに、なぜだか目がうばわれてしまった。そのうえ押田は革のパンツの下に革の下着をはいていた。革シャツの裾でほとんど隠れていたが、それは異様な姿だった。 そして革の下からあふれだした、革と混じった男の汗の濃厚な匂い。 鼻をつまんでもいい匂いのはずだった。ブーツを脱いだから足の匂いまでしていたのだから。しかし押田の匂いはただ男の汗の匂いではない。上等な革の匂いが混ざり、香水のような不思議とかぐわしい、隠微な匂いなのだった。 「お願いします」 押田は真顔で俺に革パンを手渡してきた。俺は動揺していた。押田の革の下着も手にとってちゃんと見たいと思っていた。どういう作りになっているのか知りたいのだ。押田の革パンの裏側は汗でじっとりと湿っていた。 「赤井さん?」 「ああ、その、……すぐにできるさ」 ★★★★★ 革細工工房を営む中年男、赤井。 友人の紹介でやってきた押田という若い男から革のつなぎを作って欲しいと依頼される。 ハンサムな押田は体の線が丸見えのぴったりとした革の服に身を包んでいて、いつも革と男の汗の混じる独特の匂いを放っていた……。 妻子のあるノンケ中年男が革に身を包む男たちの隠微な世界に惹きつけられていく。 ゲイ官能小説。 初出『ジーメン』。 掲載時は尾上桂治名義で発表。

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